ニューヨークに来てから半年が過ぎ、寒さの厳しい冬も終わろうとしていた。 私は学校が休みの週末になると、暖かな陽気と相まって朝から無目的にただ街をよくぶらぶらと散策していた。 時々駐車場を解放して蚤の市が開催されたりしていている。 私はコラージュ作品に使う古い雑誌や画集、写真を探したりと、ただ街を歩くだけでちょっとした出会いというのはあるのものだ。 そんな時、アパートからほど近い表通りで、アーティスト達が歩道に椅子やテーブル、台などを置いて、絵画、版画、写真、彫刻など自分の作品を並べているのを見かけた。
この通りは高級ブティックやブランドの店舗、高級レストランが立ち並ぶエリアだが、アーティスト達はそれらのお店の前で堂々と作品を並べている。 中にはちょっとゲリラっぽいアーティストもいて、歩道に絵を描いたり、お店のショウウィンドウを拝借して、そこに作品を立てかけてたりする強者もいる。 そんなことをしてお店の人に注意を受けないのか、そんなことを気にしながら彼らを観察しながら通りを歩いた。 約2ブロック先ぐらいまでそんなアーティスト達がちらほらいる。 それはいつも週末の土日だった。 平日のストリートはほとんどアーティスト達はいない。 ストリートアーティスト達は友達と会話をしたり、静かに本を読んだり、絵を描いたり、それぞれが気ままにバカンスにでも来ているかのように過ごしていた。 果たして作品が売れているのか、そうでないのかはわからないが、人通りは多く、結構なにぎわいだった。 なによりそんなアーティスト達のラフで自由な感じが、この街にとてもマッチしていた。 私も魅力的な作品を見つけると、つい立ち止まって見入ってしまう。 こういったストリートにアーティストが作品を出したのはいつの頃からか定かではないが、自然発生的に週末になるとアーティスト達が自分の作品を歩道に並べては宣伝したり、作品を売ったりしていたらしい。 最初の頃はストリートに出てきたアーティストは当然無許可でしていたものだから、何度も警察から注意を受けたり、違反切符を切られていた。 しかしそれに屈することなくアーティスト達は表現活動のためにニューヨーク市と根気強く戦い、そして裁判を起こし、最終的にストリートで活動できる権利を勝ち取ったのだった。 「ニューヨークでは、敵にまわすともっともやっかいなのはアーティストだ」と、誰かに聞いたことがあったが、とにかくこちらの人は、アーティストに限らず声をあげ戦うのだ。 街の個性というは、やはりそこに住んでいる人間が、「ここでこんなことしてみたい」って強く思ってつくられていく。 もしそれが現状でのルール違反であろうとも、自分の良心に背かないものであればそのルールさえも変えてやるという気魂があるからこそ、物事は実現していくのだ。 決して街の個性というものは、行政や大企業が作っていくものではない。 今はニューヨーク市の発行するセールス タックス IDというものを取得すれば、絵画、写真、彫刻などのART作品に限り、広い歩道のある道ならばそれらを売ることができる。 要は税金をちゃんと払ってますという証明書みたいなものだ。 時々私服警官が見回りに来て、違法なものを売っていないか、またはIDを持っているかをまめにチェックをしに来ていた。 それから一ヶ月後の土曜日、私は早朝の誰もいないストリートに一人、ガチガチに緊張し、こわばった顔をして突っ立ていた。 なぜなら、歩道に作品を並べて、これからストリートデビューをしようとしていたからだ。
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