Sohoでの新しい暮らしは、街を散歩するだけで刺激的だった。
歩いている人のファッション、ショップのウィンドウディスプレイ、レストランやカフェの空間デザインなどなど。
街には私の琴線に触れるモノに溢れていた。
そして地下鉄やストリートでは、老若男女の様々なアーティストが自分を観てくれと言わんばかりに、外に向けて表現していた。
口を開けてて待っていても誰も美味しいものは入れてくれない。
お行儀よく順番待ちしていても、順番は回ってこない。
前へ前へと自分が動かなきゃ、ここNYでは埋もれてしまう。
そんな彼らのハングリー精神をビンビン肌で感じていた私は、少しずつ小さな作品を作り始めた。
とにかくやっとNYに来て、何かを制作したいという気持ちになれたのだった。
そうなってくると作品制作ができる環境から整えていかなくてはならない。
私がSohoに引っ越して最初に買ったものは、インパクトドライバーとノコギリだった。
まずは部屋にピッタリな作業机が必要だった。
実は部屋の形が上から見ると四角ではなく、一辺が斜めの壁があった。
その斜めの壁に隙間なくピッタリ合う机が欲しかったのだ。
部屋のスペースをできるだけ有効利用するために、机や棚は全部自分で作った。
何かを作る度に私はチャイナタウンのハードウェアストア(金物屋みたいな店)まで行き、板やペンキやビスなどを買い、それを担いで帰り、そしてアパートの5階まで持って上がるという、とにかく何をするにもこの体が頼りだった。
その年のクリスマス、
ルームメイトが「私、生まれてからクリスマスツリーていうのものを飾ったことがないのよ。」と、何かの会話でポロっとでた一言に、私は「今年は是非飾りましょう!」と提案してみた。
NYでは、クリスマスシーズンになるとツリー用に本物のモミの木を道路に並べて売り出すのだ。まあツリー用と言っても小さなもので高さ2mぐらいは悠にある。
もみの木は運びやすい様に、広がった枝を傘を折り畳んだみたいに紐でぐるぐる巻きにしてコンパクトにしてある。
私はアパートの前の道路で売ってある小さめのモミの木を買って、アパートの5階まで担いで持って上がった。
アパートの玄関前でもみの木を一旦置いて、枝を折りたたんでいる紐を解いてみると、バット枝が広がり、それは結構な枝ぶりで、ボリュームのあるもみの木なのだ。
この状態だと部屋に入れることはできないので、枝を切って全体的にスリムにしないとちょっと入らない。
私はアパートの入り口の前で1時間ほどかけて枝を伐採して、スリムなモミの木を完成させた。
オーナメントは、ちょうどその頃ルームメイトがバーガーキングのオマケでカプセルに入ったポケモンを集めていて、それをオーナメント代わりに使わせてもらった。
それと小さい電飾も買ってきて、ツリーにグルグル巻きつけた。
余ったモミの木の枝と乾燥したトウモロコシを使ってリースも作って、キッチンの窓にぶら下げて飾った。
部屋中にモミの木特有の針葉樹の香りがしていた。
深夜、仕事から帰ってきたルームメイトは、それを見てたいそう喜んでくれた。
その年のクリスマス、
ツリーのお礼ということでルームメイトが大きなロブスターを2匹買ってきてくれた。
夜にそれを茹でて2人で食べた。
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