新しく引っ越した先は、まさに自分がイメージしていたニューヨークといった感じの場所だった。
初めてここへ来た時、地下鉄の駅を降りた時点で私は街の空気というか、街の景観やストリートを行き交う人々、色んなものをひっくるめて何もかもが気に入った。
NYは地域によって、いや、ワンブロック違うだけで街の雰囲気が一変するのだ。
ここは真夜中でも街の騒音、人の声や車の音で騒がしい。
とりわけアパートの前の道路が二ュージャージーへ抜けるホーラントンネルに続いているので、夕方から大渋滞がおこるのだ。
アップタウンに向かう6thアベニューとクロスする交差点があり、信号が青になっても進まない状況にドライバーはいらだち、何台もの車が一斉にクラクションを鳴らすのだった。
とにかくこちらの人は直ぐにクラクションを鳴らす。そして大声で怒鳴る。
それは女性も男性も関係なくそうなのだ。
アパートは6階建てプラス屋上があり、私の借りた部屋はその5階にあった。
ただしエレベーターはない。
部屋もそれほど広くはなかったが、とにかく日当りがいいのがいい。
なによりも私は半地下の昼間でも暗い部屋はもうまっぴらごめんだ。
そしてあのフォレストヒルズのような静かで長閑な環境は受け入れがたく、当時の私にはまったくなじめなかった。
バスとキッチンはルームメイトとシェアだが、ルームメイトは早朝にアパートを出て、深夜に帰宅という感じでだったので、彼女の生活と私の生活が被ることが少なかった。
そのおかげで、あまり気を使うことなく、自由気ままに生活ができた。
後日談だが、Sohoのアパートに初めて面談に行くときに、私は気合いを入れるつもりで長い髪をバッサリ切って、できるだけ爽やかな好青年っぽくして行ったのだった。
当時の私は髪が肩にかかるぐらいのロン毛だった。確かヒゲも生やしていた。
正直とっても怪しい風貌だったように自分でも思う。
なぜそんなことをしたかというと、いい引越し先が決まらないのはなぜなのか、その原因をずっと考えていた。
そして色々考えた結果、この怪しい風貌が原因ではないかという結論に至ったのだ。
人間、あまりにも深く考えすぎると妙な方向へと思考が進む。
随分後になって、そのことをルームメイトに話したところ、「あっ、そうだったの。私、ロン毛で髭の男が好きなのよ。」って。ルームメイトの彼女は、自分よりも確か7つぐらい上だったように思う。
日本人の男にはまったく興味がないと公言していた彼女だったが、私はこのアパートがすごく気に入ったので、ルームメイトの彼女と変な関係にならないようには努めていた。
ただ、彼女のおかげで随分とNY生活が居心地良いものになったのは確かだ。
銀行口座の開設の仕方から、アメリカ文化やアメリカ人について、音楽、料理、ソーシャルセキュリティーカード、英語などなど、思い起こせばキリがないくらい色んなことを教わった。
NYでバリバリ働いている彼女からすれば、私は随分と頼りない日本男児に見えていたことだろう。
二人の関係は、多分出来の良い姉と出来の悪い弟みたいな感じだったと思う。
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